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生命情報科学の源流

第7回 1945年:太平洋の夜明け—東京、シドニー、カリフォルニア

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焼け跡の東大

 戦争中、殺人光線開発の“番頭”をつとめていた渡辺格は、1944年(昭和19年)に輻射線研究所・助教授として正式に東大に戻っていた。東京府立五中の生徒だった頃、渡辺はジョン・フォード監督の映画『人類の戦士』を観ていた。原作はシンクレア・ルイス著『アロウスミス』。ロナルド・コールマン演ずる科学者アロウスミスが白衣を着て試験管をふる姿が忘れられなくなった。この映画で病原菌の培養液が透明になるシーンに、バクテリオ・ファージの存在が暗示されている。アロウスミスよりも先に同じ発見がパスツール研究所でなされていた事も語られる。しかし、渡辺は父や兄のようには医学を志さなかった。一高での物理学の講義でボーアの量子論を聞いて感動した事も一因だったかもしれない。「石谷先生は、“観測値が理論に一致するか、ボーアはわくわくしながら計算したんです”と言って、観てきたようにその過程を実演してみせた」と渡辺。東大理学部化学科教授の片山正夫と伯父が高校の同級生だったことから研究室にいりびたるようになり、やがて、助教授だった水島三一郎の指導を受けるようになった。敗戦後、その水島研では「生命とは何か」をめぐって熱を帯びた議論が続いていた。

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