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大人の科学実験村 第9回 世界初の航行へ「高温超電導船 ヤマト2」、発進せよ!

今回参加の村民

編集部員3名と、今回は超電導船の専門家と超電導コイルの開発者に参加していただいた。

岩田 章先生

世界初の超電導船SEMD-1の設計者。今回の船も設計をしてくださった。

岡崎 徹さん

住友電工で超電導体を開発する技術者。最先端のコイルを持って参加。


協力/住友電気工業株式会社 文/かなざわいっせい 構成・文/小島俊介(ハユマ) 
写真/加藤啓介 イラスト/加藤 徹

 今回は、電流と磁界によって海水を押し出して走るスクリューの無い未来の船、「超電導電磁推進船」に挑戦だ。
  有人船としては世界初になる「超電導船ヤマト-1」の提案者に協力を要請、開発されたばかりの貴重な高温超電導コイルを住友電工さんに頼み込んで借り、さらに液体窒素100リットル、総重量約200キロのカーバッテリー20個を用意して、実験村史上、空前のスケールによる無謀な実験が始まった。

浦賀沖の海岸で開村
船の歴史に新たな1ページが!?

超電導電磁推進船は、中学で習った「フレミングの左手の法則」で進む!

フレミングの左手の法則は、電流と磁界、受ける力の向きを、中指と人さし指、そして親指の方向で表わしたもの。

この法則に従えば、海水に電流と磁界を与えると一定の方向に力が働き、海水に流れを作ることができる。

海水を船の前から後ろへ流し、その反作用で船は前進するのだ。

 神奈川県三浦半島の海岸に海を背にして立ち、湯本は第9回実験村の開村宣言を発した。05年11月13日の午前9時である。空は快晴、ほぼ無風で波穏やか。

 「今回は高温超電導電磁推進船の海上航行実験に挑戦する。では、先生どうぞ」

 湯本村長の紹介で、村民の前に立ったのは岩田章氏。今回の実験村手作り高温超電導電磁推進船「ヤマト2」の設計担当および全面的責任者である。金子助役にもわかるようにと、優しく且つ易しい言葉で語り始めた。

 「中学校の理科で学んだ『フレミングの左手の法則』の応用です」
と、左手の指をその形に開いて見せた。

 「船体に固定した超電導磁石によって海水中に磁場を作り、それに直交するよう海水に電流を流すと、海水に電磁力が発生します。その反力によって船は進む。つまりスクリューのない船ですね。私はかつて液体ヘリウムで冷却した金属系超電導コイルを使った『SEMD-1』を作り、実験に成功しました。が、今回の冷媒は液体窒素、セラミック系の『高温』超電導コイルを使います。これは世界初の試みです!」

 湯本村長の最も好きな言葉が「世界一、世界初」である。満足そうに岩田先生の説明に湯本は深く相槌を打っていた。

今回作る超電導船「ヤマト2」の仕組み

船の中央にある推進装置の電極板に強力なカーバッテリーをつなぎ、海水に上から下へ強い電流を流す。

超電導コイルは、その推進装置をサンドイッチするように配置。左右に強力な磁界を発生させると、推進装置の中の海水に後ろ向きの力が働いて船が前へ進むというわけだ。

 

【船の後ろ】
実際の推進装置は4つのダクトに分かれている。

 

【電極板】
推進装置のダクトの中に入っている電極板。


【超電導コイルと容器】
液体窒素を入れる容器には、磁界を邪魔しないようステンレス製のものを使用。

広範囲の磁界と大きな電流で、海水をゆっくりと押し出して進む

今回、超電導コイルが発生する磁場は0.1T(テスラ、1T=1万ガウス)。ネオジ磁石でも0.3Tくらい出せるものがあるので超強力というわけではないが、この超電導コイルは直径が23cmもあるというところに意味がある。

船は小さなスクリューを高速で回転させるよりも、大きなスクリューをゆっくり回転させた方がよく進む。電磁推進船の場合も同じで、海水の噴射口を絞って海流を速くするよりも、広い範囲に磁場を発生させ、一度に多くの海水を流すことが重要になる。そのためにはより大きな磁場が必要で、ネオジ磁石でこれをやろうとすると巨大で重い磁石になってしまうのだ。

今回の場合、十分な推進力を得るために海水に流す電流量を大きくしてみた。推進装置のダクト1つにつきカーバッテリー(12V)を4つ直列につなぎ、48Vもの電圧で海水に電流を流す。海水の抵抗を考慮すると、ダクト1つ(電極間6cm)につき最大48A流れる計算だ。

以上の数値より船の推進力を計算すると、0.1(T)×6(cm)×48(A)=28.8(N・ニュートン)が4つで合計115.2N。1Nは約1kgなので約100gの推進力を得られることになる。ちなみに、超電導コイルが作り出す磁場は近い将来20Tを越えるという。

 金属を電気抵抗ゼロの超電導にするには−269℃まで冷却しなければならない。それには液体ヘリウムが必要となる。が、液体ヘリウムは非常に貴重で高価かつ取り扱いが困難なため、実用的ではない。そこに登場したのがセラミック。

 −160℃でセラミックは超電導になる。−269℃に比べると夢のような高温なのだ。冷媒は液体窒素で、窒素は空気中に無尽蔵に存在しているため安価。それが生み出す電磁力で動く船が実用化されれば、振動のない超省エネ船となり、世界が変わるといっても過言ではない!エネルギー争奪のための戦争はなくなる。今回の企画立案者主任西脇、身体が震えた(プロジェクトX風)。

超電導電磁推進船の歩み

電磁推進の仕組みは1958年、アメリカで発案された。1960年代に入って強磁場を出せる超電導コイルが現れ、超電導電磁推進船の開発が盛んに行われるようになった。日本の研究は1970年代より開始。全長1mの小型超電導コイル搭載モデル船「SEMD-1」、全長3.6mのモデル船「ST-500」での実験を経て、ついに1991年には世界初の有人実験船「ヤマト-1」を完成させた。

 

世界初の超電導船「SEMD-1」
岩田先生製作。

写真提供:岩田章

実際に海を走った
超電導船「ヤマト-1」

写真提供:
海洋政策研究財団

 

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