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特集記事

息を吹くと投影した風車が回る不思議な箱 suzukaze

クリエイター伏見再寧

このデジタル全盛期の時代、一人の若きクリエイターが、アナログ映像の温かさを世の中に伝えようと、不思議な箱を生み出した。風車を投影するその箱に息を吹きかけると、投影された風車が回転する。実物に触れただれもが虜になるsuzukaze とは、一体どんな作品なのだろうか?

取材・文・撮影/眞形隆之 映像制作/三好宏弥 写真/彩虹舎

suzukazeとは?

 suzukazeと名づけられた拳大の大きさの木箱は、アクリルの貼られた面を前方に傾けるとスイッチが入る仕組みだ。仕込まれたLEDライトが光って、箱の中にある15mmの紙製風車が映し出される。箱の背面には、空気の振動をキャッチするセンサーが取り付けられていて、息を吹きかけると、中の風車が回るという作品である。

 実際に触ってみないとわからないのだが、タイムラグもなく、吹けば回り、吹くのをやめれば止まるというダイレクトな反応がとても心地よい。

 「作品を作る時、物から入る人と、コンセプトから入る人の2タイプがいると思うんです。僕はどちらかというと物や現象から入るタイプなんです。たまたま本屋で、『大人の科学』の紙フィルム映写機をみつけて購入しました。
最初は紙フィルムで遊んでたんですけど、そのうち指や立体物を投影するようになり、そのリアルに映し出される映像に感動して、“この仕組みを利用して、遊んで触れて楽しめる何かができないかな” と考えて生まれた作品が、このsuzukazeなんです」

伏見再寧(ふしみ さいねい)
PROFILE

1984年生まれ、中国・北京出身。10歳から日本で暮らし、現在は都内の美術大学でメディアアートを学んでいる。デジタルでは表現できないアナログのインタラクティブ作品を数多く手がけ、NHK「デジタルスタジアム」では、2008年に『suzukaze』でグランプリを獲得。
http://sainokaze.web.fc2.com/

MOVIE インタビュー01 suzukazeを作りました
インタビュー02 suzukazeが出来るまで
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suzukazeの中身

 材料探しには苦労した。強い光源、投影に適したレンズを手に入れたいが、大学生の身分で予算も少ない。コストはできるだけ減らす方針で、試行錯誤の末、100円ショップで売っている双眼鏡のレンズを何枚か重ねて完成させた。

 suzukazeを作ってみて、コンピュータで計算されて変換されたデジタル映像とは違う、光の反射だけを利用してダイレクトに映し出されるアナログな映像のリアリティに気づいたという。

 suzukazeを見たとき、最初に誰もが不思議に思うのが、吹きかけた息だけに反応するということだろう。空気の振動を拾うということは、実は音を拾っているということである。やはり、最初のうちは手を叩く音にも反応していたという。原理的には、息を吹くフーという波長と声の波長は違っていて、コンピューターにノイズ系の振動だけを拾うというプログラムをすることで声の音と風の音を区別させているのだという。そして、プログラムして実験しての繰り返しで、精度を高めていったそうだ。

 「僕は作品に余計なものをあんまり入れたくないんです。だからスイッチもつけずに、suzukazeの向きを立てることで、パッと映像が出るというのは驚きの要素になると思って、こういう仕様になりました。suzukazeのイメージは積み木なんです。一個だけでなく何個も積んでいくことで、ちょっと角度を動かしたときの空間のズレや、像と像を重ねたときの色合いなどが面白いと思います」

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